どういたしまして
Prego.
「『Grazie』は日本語で何て言うの?」
「『ありがとう』」
「じゃ『ありがとう』と言われた時は、何て言うの?」
「『どういたしまして』」
「ぎゃ!難しいッ!!」
イタリアで、何度となく繰り返してきた会話だ。
イタリア語で『Prego!(プレーゴ)』が、
日本語だとなぜこんなに長い単語になるのか困惑するのだ。
私は正しい日本語を教えたいと思っている。
友人の中には、『いいえ』や『いえいえ』などと伝授している者もいるのだが、これらの言葉はニュアンスが難しいと思う。
前者の『いいえ』は、続く『どういたしまして』という言葉が省略されている。
後者の『いえいえ』に至っては、公式な場には向かない。
こういう質問をしてくるのは、観光通訳をやっているレティーツィアだったり、ホテルのコンシェルジュのバンビだったり、仕事で日本人と接する可能性のある立場にいる友人たちだ。下手な日本語を発して、日本人クライアントを不快にさせてはいけない。
バンビの場合を例にとってみよう。
彼が勤務するホテルのクライアントは、1泊900ユーロも払っている。すばらしいサービスを提供すべきだ。彼の同僚は、過去10年に渡って、1度宿泊したクライアントの名前と顔を全て覚えているという。
バンビだって、日々、フィレンツェ内・近郊のレストラン・観光名所を開拓しているし、言葉だって伊・英・仏・西語と堪能だ。
そんな中、「君、ありがとう」「いえいえ」「・・・」。
急に、大阪商人の会話になってしまわないだろうか。
しかしだ、確かに「どういたしまして」は難しい。しかも変な訛りが入る。
「どぉーいたしゅましゅてぃ」
私は考えた。考えて、比較的頭のいいバンビで試してみた。
『いいえ』の本質を教え、日本人と寸分変わらぬニュアンスさえ表現させるプロジェクトXだ。
『いいえ』の本来の意味は『NO』であること。
『いいえ』を使う際は、笑顔が必要であること。
イタリア語で私もよく使うのだが、『Niente』という語がある(人によっては使わないらしいが)。「なんてことないですよ」って感じの意味だ。
『いいえ』は、これに近い気がしている。やはり、仏頂面で「Niente!」というとかなり感じ悪い。はねのけられる感がある。
お手本を見せた。
「いいえぇ」+ニコッ♪(フユミスマイル)
彼は、リピートした。
「こうだね?」
「い~え」+ニカッ!(と音の聞こえそうな笑顔)
さすがイタリア男、その100万ドルの作り笑顔にクラッときた。
パーフェクト。きっとチップも弾んでもらえるに違いない。